ラスト4ページ

大江健三郎『水死』を読了。

無教養な私は、言葉の意味をいちいち咀嚼しながら、時間をかけてこの本を読んだ。
そして、読み終えたいま、その「かい」とでもいうべきものを――つまり、素晴らしい「読書体験」を得た、という確信のようなものを――ぞっとするようでいて、昂揚するようでもある気持ちと共に実感している。

未読の方のために、細かい読解は差し控えたいが、この書物全体を貫くテーマとしてある(であろう)「再構築」されていく喜び、あるいは苦しみのなかにあって、ラスト4ページ、つまりクライマクスは(そう、決して「アンチクライマクス」ではない)明快に一つのものを〈終わらせた〉。一見、続編も作れそうなこの作品ではあるが、そういう意味で、大江健三郎の〈最期の作品〉となってもおかしくない。
まったく良質な文章とは〈生み出す力〉と〈終わらせる力〉を同じくらいに持ちあわせているものなんだなあ、と思わされた。

この作品で描かれているところに、痛快な「新しさ」はない。
一応、若々しいキャラクターも描かれてはいるが、彼ら/彼女らが私達のカリスマたりえるか、というと、妙にズレている。
ただ、全体を通して、あるいはある部分を切り取ることで、何か、考え方の「基盤」となるようなものを与えてくれるのが、この作品の魅力であり、一種の「親切さ」なのだ。


「大江とか、堅苦しいイメージしかねぇよ」という方。
食わず嫌いをせずに是非、読んでみてください。
ラスト4ページの衝撃を目指して。

これは、紛うことなき名著です。


ではでは、ですますですた。

水死 (100周年書き下ろし)

水死 (100周年書き下ろし)