駆け抜ける価値がある夜

一仕事終えた(前日記参照)からか、こんなにも爽快に過ごせる夜はそうそうありません
僕は、こういう夜を共に過ごすバンドっていうのが、幾つか決まっていて


その一つに〈スピッツ〉というバンドがいます
彼らは、世間ではただのポップスバンドだと思われているようですが、(少なくとも『クリスピー』によってJ-POP宣言を高らかに行うまでは)非常にコアなバンドでした。
そして、僕にしてみりゃ現在の彼らだって、十分コアな存在なわけです。


例えば、初期からこんな曲を抜粋してみる


この曲は、一般のファンの間では紛れもないJ-POPアルバムだと認識されている5thアルバム『空の飛びかた』に収録されています。それだけあって、この『スパイダー』という曲も、まさに「J-POP的」な爽やかさを持った、何か物語の始まりそうなギターリフから始まるわけです。しかし、その爽やかさはあくまで表面的なものに過ぎず、バンドは、気が付けば延々単調なメロディーでリフレインし続けるラストのサビ部分に向けて、恐ろしく「閉塞的」に「何か」得体の知れないイメージを伴って突っ走っていってしまう。
この曲のジメジメとしたイメージは、逆流的に歌詞のパワーをも強調し〈だからもっと遠くまで 君を奪って逃げる〉というフレーズの薄気味悪さを際立たせます。
また、当時スピッツのバンド・テーマとして「性と死」というものがありましたが、そういった背景と照らし合わせてみると、更に踏み込んだ、面白い解釈も可能になるかもしれません。

こういった、妙にミステリー性に富んだ楽曲を、後に彼らはシングルカットしてしまうわけですが、そんな部分も合わせてスピッツはとても魅力的だと言えます。

まあ、それはともかく、上記したような楽曲のイメージが、僕の中では「夜」と直結しているのです。しかし、それは(草野マサムネのヴォーカルの声質が原因してか)とても爽快な「夜」であり、童話的な「夜」であるとも言えます。


あるいは、個人的にこの曲の続編として捉えている曲として、そのままタイトルに「夜」を盛り込んだ『夜を駆ける』があります。

〈役者〉として、まさに「駆ける」ようなドラミングがあり、一方で地を必死に這いずり回るようなベースがある。そしてそれらを表面的に彩る〈舞台装置〉として、ドラマチックなギター・サウンドが切迫したエモーションを伴って僕たちに届いてくる。この曲は、レコード会社の戦略次第では人気ドラマの主題歌になっても可笑しくないような「解りやすさ」と「完成度」を誇っています。
しかし、この曲からも、やはり僕は「エモーション」の域を超えた「何か」を感じるのです。それが何なのかはよくわかりません。(いや、僕の中では一定の解釈に成功しているわけで、だからこそ以上の楽曲を「コアである」などと言っているわけですが、そういった解釈は人それぞれなのでここではその解釈の束を総合的に「何か」と呼ぶことにします)

とにもかくにも、やはりこの曲も、マサムネのボイスと表面的なギターのドラマチックさによって、爽快な「夜」を過ごすに適した音楽となっています。その本質にある奇妙な「何か」を感じさせぬ(あるいは忘れさせた)まま、僕の脳内に、どうしようもなく心地よく届いてくるわけです。



……あるいは、ひょっとすると、

これらの曲は、そしてスピッツというバンドは、やっぱり、あまりに(=僕が解釈しうる以上に)「コア」すぎるのかもしれません。だからこそ僕は、今夜のような「余裕」のある「爽快」な夜にしか、彼らの曲に真正面から向き合うことが出来ないのかもしれない。
そんなことを、ふと思ったりします。


いずれにせよ、僕は今夜のような気持ちの良い「夜」にこんなバンドを聴いては眠りにつくのです。明日への不安など何処にもないような、そんな「夜」に。

Crispy!

Crispy!

三日月ロック

三日月ロック