派遣問題に関するメモ

「派遣」の歴史

・当初、職業安定法44条(「労働者供給事業」に対する禁止条例)及び労働基準法6条(「中間搾取」の禁止条例)によって、「派遣労働」自体が認められていなかった。そのため、当時(1970年代)の事務作業系派遣企業は、〈会社として仕事をまるまる請け負う〉形での「事務請負」として、派遣業務を行っていた。
・1985年「労働者派遣法」成立、翌86年、同法が施行される。当時の法律では、「派遣」は専門性の高い業務にのみ認められていた。
・1992年、フルキャストが誕生。95年にはグッドウィルも営業を開始する。「軽作業」(とは名ばかりの「重労働作業」)の派遣を行うこれらの会社は上記法律の関係で「軽作業請負」として派遣業務を行っていた。
・1999年、派遣法改正。派遣対象業務の原則自由化(ただし、建設、港湾、整備など、危険の伴う業務に関しては禁止)

「派遣」の問題点
・「派遣」の大部分を占める「日雇い」の問題。
日雇い派遣禁止法案」の施行により生まれた、「日雇い」と実質的には何ら違いのない「フリーシフト(FC)制」は、シフトで予約した日に仕事を手配できなかった場合の日当保証などがなく、そうなってしまった場合、その日を暮らすことすらままならなくなる。
彼らは、まさにその日暮らしの生活を強いられているため貯蓄が出来ず、帰る家庭のない者などは安定した職を探したくても、その移行期間(例えば4月に正職につけたとして、末締め翌15日払いの場合、その給料日までの最初の一ヵ月半)を乗り切ることが出来ないため、結局「日雇い」に残るしか道がなくなる。
・「ピンハネ」「自己負担金」の問題。
かつての「直接日雇い」と違い、現在の「日雇い派遣」は、マージン(紹介料)として給料の3〜4割を「ピンハネ」されてしまう。(『派遣の逆襲』著:関根秀一郎)また、一定支給額(ない場合もある)を越えた交通費や、昼食代などについては自己負担を強いられるため、遠方での勤務などの場合は手取り5000円に満たなくなる場合もありうる。だが、明日以降の仕事の紹介がなくなるかもしれないという恐怖から、そういったことに対して文句を言えない状況が、被雇用者のなかには確かにある。
・重要性の高い仕事(国家試験の採点や病院のカルテのまとめ作業等)の場に、たいした訓練も受けていない「日雇い労働者」が送り込まれている現状は、「貧困」の問題以外の部分へも悪影響を及ぼしかねない。いまや、各省庁の年度末のデータ入力業務さえも、派遣労働力によって行われている。

改善されてきた部分
・2007年、派遣ユニオン フルキャスト支部(通称「フルキャストユニオン」)は、フルキャスト派遣労働者への「有給休暇」「日雇い雇用保険」の適用を求め、これを承諾させた。前者は、6ヶ月以上の契約を派遣会社と結んでいる労働者が、その間働いた日数に応じて、有給休暇を得ることが出来る、画期的な制度である。後者は、2ヶ月間で26日以上就労した者は、その翌月、予約していたにも関わらず仕事に就けなかった日の「アブレ手当」を受け取れるという制度である。この制度によって、少なくとも、仕事がなければ泊まる場所を失う、という状態は解消される。いわゆる「セーフティ・ネット」である。



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貧困に関するレポートを書くために、関根秀一郎『派遣の逆襲』を読む。
なかなかに現場主義的なロジックを伴って展開されていく「反=派遣切り」のメッセージを軸に、しっかりとした歴史/データによる「派遣の歴史」についての解説、あるいは現状の捉え方の指針となりそうなエピソードの紹介など、意外と多方面から「派遣の問題」が語られていて、勉強になった。
それにしても、ユニオン(労働組合)を次々と結成し、大手企業を相手にバシバシその悪を暴き、公正させていくさまは痛快だが、こちらをまるでドラマ(=フィクション)でも観ているような気分にさせる。それゆえ、もう少し「困難」のようなものをしっかり書けていれば、読み手に、よりリアルに問題を考えさせることが出来るんじゃないかと思った。

いずれにせよ、かなり面白い。
オススメです。


派遣の逆襲 (朝日新書)

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