吉田戦車『出前姫』を読んだ!

出前姫 民話ボンボン (BEAM COMIX)

出前姫 民話ボンボン (BEAM COMIX)

昨日でた吉田戦車の新作コミック『出前姫』。
「民話ボンボン」シリーズ(「実は民話好きな吉田戦車が、古今東西の民話を勝手に創作!!」というコンセプト by Wikipedia らしい)という一つの壮大な(?)構想の第一作目であるこのマンガは、「厨房王」ことあわび三世の治める「あわび王国」という料理大国に「ギリギリ王国」という国の王族から出前の依頼が届く場面から始まる。
〈王家への出前は王族がする〉という「きまり」に従って、あわび三世は娘である「出前姫」に、冷めないようその空間だけ「時」を止められた絶品料理を片手に、旅に出るよう命じる。旅である以上、当然様々な困難が彼女の行く手を阻むのだが、その「困難」に吉田戦車カラーがはっきりと出ていて、とても面白い。
また、基本的に、妖怪に襲われる→倒す/改心させる→妖怪に襲われる→倒す/改心させる の繰り返し(その芯には、妖怪となってしまった出前姫の兄の記憶を取り戻す、とか、悪の妖術師を倒す、などの大筋が存在するのだが)なのだが、どの妖怪も見た目のグロテスクさと、ネーミングの情けなさが相まって、妙な味がある。
個人的に気に入っている「妖怪」は、幼女の声で「おにーちゃん(はぁと)」と甘えることで自分をだっこさせようとする「有名翁(ゆうめいおう)」。まぁ、単なる「子泣きじじい」なのだが、この身も蓋もないネーミングにはつい笑ってしまった。
あとはピンで戦う「ピンピン人」、出前姫の学友だった「実学生(みがくせい)」など、この作品はストーリーやギャグ以上に「キャラクター」を楽しめるという意味で、今後「吉田戦車」という作家性の一側面を充実させた代表作と見做されていきそうだ。


ちなみに、表紙には作中に出てくる様々な「妖怪」が、出前姫を中心にまさに百鬼夜行のごとく行進していくさまが描かれている。中身を一度読んだあとにこの表紙を見ると、妙に心が和んでしまう。


最近、第一子に恵まれたばかりの吉田戦車。案外「子供ウケ」を狙ってこの作品を描いたのかもww