けっこうアツい「青春ドラマ」としての『けいおん!!』
今期は何気にアニメが充実している。毎日、観るものが多くて録画するのもシンドイぜ! などと、およそ真っ当な人間とは思えない悩みを抱えています。どうも、ですますです。
皆さんは『けいおん!!』観てますか?
昨年、京都アニメーション(通称、京アニ)によって製作された『けいおん!』。本作は、その第二期にあたります。一期の段階では、女子高生がバンドを組んで(タイトルは「軽音」を平仮名化したもの)、毎日気楽にワイワイやる、といういわゆる「空気系/日常系」の作品として評価されていました。他方、「バンドもの」としても注目され、結果、登場キャラクター達に「萌え」たファン達が、そのキャラクターの使っていたギターやベースのモデルを買っていく、という現象が日本中で発生。内因的にも外因的にも話題を呼びました。
そんな、基本的に「萌え」の系譜で語られがちな一期と比べて、第二期の内容はかなりステロタイプな「青春ドラマ」となっています。
というのも、メインキャラクター(軽音楽部の部員)五人のうち、四人=平沢唯(憂に甘える唯かわいい)、田井中律(俺の愛人。愛称:りっちゃん)、秋山澪(しましまパンツの澪かわいい)、琴吹紬(俺の嫁。愛称:ムギちゃん)は高校三年生。そろそろ真剣に将来のことを考えなきゃいけない時期です。更に、このままじゃ残りの一人=中野梓(ぺろぺろ 愛称:あずにゃん)は、来年以降、たった一人で軽音楽部を存続させていかなければなりません。いや、そもそも学校側に部として認められるためには部員が四人必要なので、このままじゃ、軽音学部自体、廃部となってしまうわけです。
本来ならば、彼女たちは、新入部員獲得に全力を賭すべき状況に置かれています。
しかし、第七話目が放映された現時点で、彼女達は未だ五人で活動している。
しかも、本人達に焦りはなく、今後もこの五人でやれるところまでやっていきたい様子です。
とはいえ、この状況は、そこまで意外なことでもありません。
むしろ、そうでなければ、この作品(そして彼女達/彼女達のバンド=放課ティータイム)はただの「代替可能な〈萌え〉」というレベルで読み込まれてしまいます。その「読み込み」は、この作品の志向している(であろう)場所から、遠くかけ離れた地点に、視聴者を導いてしまいます。
では、『けいおん!!』(あるいは「けいおんシリーズ」)の志向する地点とはどこなのか?
推測するに、それは、ずばり「目指せ! 武道館!」です。
一期では、あくまで「女子高生の軽いノリ」として、キャラクター達の口から発せられていたこの冗談。
それが (1)「外部」の獲得/描写 (2)キャラクター達による相互的レイヤー(層)「乗り越え」 を経ることで、はっきり「目標化」してきているのです。
少しだけ詳しく見ていきます。
(1)に関しては、一期のDVD7巻に収録されていた未公開話「ライブハウス!」がきっかけとなっています。この回において、放課後ティータイムは初めてライブハウスという「外部」で演奏をすることになる。
そこで彼女達は、本気でプロを目指す「他者」と出会い、放課後ティータイムの活動を見直し始めます。「このままでいいのか」といった戸惑いが描かれるわけです。そんな「戸惑い」に喚起されたある種の「決意」のようなものが、その後、二期において度々語られていくことになります。
また、最新話(第七話「お茶会!」)は「外部」を描写する回でした。ここでは、校内ではあるものの「澪ファンクラブ」という可視化された他者に向けてライブを行います。実は、これってシリーズ通して初めてのことなんですよね。いわゆる「モブキャラ」の集合が丹念に描かれたことって、いままで一回もない。
こういった「外部」の獲得/描写は、リアルなバンド活動を描く上で必須です。特にライブとは、その場に「生きる(LIVE)」全てを包み込む行為、バンド−客の「生」を交じ合わせていく行為なわけですから。
内輪ノリばかり重視していたのでは、バンドとして、ただの「学芸祭レベル」で終わってしまう。逆接的に言えば、そこを回避する意志が作品から見えてきたことで『けいおん!!』は単なる「空気系/日常系」からの脱却を果たしたといえます。
(2)もまた、とても重要な視点です。
「代替不可能な〈物語〉」としての放課後ティータイムを成立させるためにも、キャラクター達は、それぞれ自分と他メンバーの布置されているレイヤーという「隔たり」を乗り越えていかなければならない。つまり、結束の強化、相互理解の強化、が必要となります。
一番わかりやすいところでは第一話、第二話で描かれた「梓と他メンバーの学年差」というレイヤー。二話目に於いては、ムギに焦点をズラして「富裕層と一般層」というレイヤーで眺めることも出来ます。
第三話では、律が自らのバンド内での立ち位置について悩み、乗り越える。彼女が、四話目にして、ようやく他のメンバーと同じ「ノリ」に飛び込んでいく様は、非常に示唆的です。
また、第四話では、終盤の唯のナレーションも聞き逃せません。ここにきて唯は『けいおん!!』の志向するところを、はっきり明言してみせました。
この二つの要素をしっかりと消化していくことで、放課後ティータイムは、その輪郭にはっきり「物語」を帯びはじめています(他方では、目に見える演奏シーンの少なさが批判されがちですが)。いまや『けいおん!!』は「青春ドラマ」というラベルを獲得したのです。
そして、この「青春」のイメージは、ここまで観てきた視聴者達のなかで、自然と「武道館」へ続いていくでしょう。
ちなみに余談ですが、このシリーズでは、OPに「日常系」の映像が採用されているのに対して、EDではいわゆる「PVっぽい」映像を採用しています。
「PV」を単純に「プロのアーティスト」のメタファーだと仮定するならば、この30分間のアニメが、そもそも「構造」としてOP(日常)→本編(過程)→ED(バンドとしての成功)という超明確な「物語」をなぞっていることがわかります。まあ、これは、個人的な解釈に過ぎませんが。
今後、このシリーズがどう転がっていくかは観てのお楽しみ、です。
なにはともあれ、いま、『けいおん!!』がアツいことは確かです。
「なんとなくファンのノリについていけない」とか「メジャーすぎて観る気がしない」とか思っている人も、是非一度、観てみてください。
ではでは、ですますですた。
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